浮世絵で見る木曽路 … かつての木曽路十一宿を、広重・英泉作の浮世絵で紹介します。

●中山道と木曽十一宿
 中山道は江戸時代の五街道と呼ばれたうちの一つ、江戸から京都に至る街道で、日本橋を起点とし、途中、草津で東海道と合流し終点は大津でした。総距離は百三十五里二十三町(約533km)で、当時の旅人はこの街道を、18日から20日をかけて歩いたとの事です。
 幕府はこの街道に67の宿駅を定め、このうち木曽路の宿場は第三十四宿の贄川から第四十四宿の馬籠までの十一宿でした。
 中山道の中では、宿駅数で1割にしか満たない「木曽」の名が街道にかぶせられ、別名「木曽街道」と呼ばれたのは、それだけ木曽の自然や風物が旅人に強い印象を与えたからなのでしょう。

中山道六拾九次宿場駅名
中山道六拾九次宿駅名


●広重・英泉作『木曽街道六拾九次』について
 『木曽街道六拾九次』は天保六年(1835年)頃着手され、当時、美人画で名をはせた渓斎英泉(1791年〜1848年)が手がけ、途中、『東海道五拾三次』で成功を納めた歌川広重(1797年〜1858年)に受け継がれました。
 艶やかな美人画を得意とする英泉と、叙情的風景を描く広重という、作風の異なる二大作家による連作は、他の風景画にない異色の魅力を持つ大作中の大作と言われています。
 英泉はシリーズ中24図を描いていますが、作風は漢画のタッチを生かした、やや硬い調子のものが多く、広重ほど「幽玄」「わび」「さび」「哀愁」をたくみに表現するセンスには及ばなかったため、それほど人気を獲得するに至らず、ついに深谷宿、本庄宿のあたりで挫折してしまいます。
 そして、広重の作品が占める割合が多くなり、最終的には英泉のほぼ倍の46図を描く結果となりました。広重はこの作品により、さらにその名声を高め、広重の出世作とも言われています。
 なお、この『木曽街道六拾九次』は、第四十六宿の中津川が変わり図で2枚描かれ、更に起点の日本橋が加わっているため、総点数は71枚となっています。

 その中から、木曽路の十一宿を描いてある11枚を、北から南へ紹介します。




贄川宿 ■第三十四宿 「贄川(にえかわ)」
 【広重】  (長野県木曽郡楢川村贄川)

 木曽路十一宿の北端の宿場。絵の軒先の看板に、このシリーズの彫師、摺師、版元の名前がある。馬の尻に書いてある三十四とは贄川宿の宿番を示す。
奈良井宿 ■第三十五宿 「奈良井宿・名産店之図(ならいしゅく・めいさんてんのず)」
 【英泉】  (長野県木曽郡楢川村奈良井)

 鳥居峠越えを控え、一夜の宿をとる旅人が多く「奈良井千軒」と言われるほど栄えた宿場。看板の「名物お六櫛」は、この地方の特産品で薮原宿の方が有名。
薮原宿 ■第三十六宿 「薮原・鳥居峠硯清水(やぶはら・とりいとうげすずりしみず)」
 【英泉】  (長野県木曽郡木祖村薮原)

 難所だった鳥居峠(標高1,197m)を越え薮原宿に。左手の松の根本に、木曽義仲が願文を書いたという硯清水がある。はるかに見える山は御嶽山。
宮ノ越宿 ■第三十七宿 「宮ノ越(みやのこし)」
 【広重】  (長野県木曽郡日義村宮ノ越)

 ここは木曽義仲ゆかりの地で、平家追討の挙兵の地、旗上八幡宮がある。絵は、夜霧を表現するシルエットの処理が見事で、近景はくっきりと遠景はぼかした技巧的に優れる名作。
福島宿 ■第三十八宿 「福し満(ふくしま)」
 【広重】  (長野県木曽郡木曽福島町)

 福島は木曽谷の行政と経済の中心地。碓氷、箱根、新居と共に天下四大関所の一つがある中山道要の宿場。中山道のほぼ中間地点。信仰の山御嶽山への玄関としても賑わっている。
上松宿 ■第三十九宿 「上ヶ松(あげまつ)」
 【広重】  (長野県木曽郡上松町)

 上松には「木曽八景」のうちの五景がある。その一つ「小野の滝」が描かれている。付近には中山道随一の景勝地と言われた「寝覚の床」がある。
須原宿 ■第四十宿 「須原(すはら)」
 【広重】 (長野県木曽郡大桑村須原)

 宿場の中の水舟が風物。絵は宿のはずれの名刹「定勝寺」の境内だといわれる。激しいにわか雨に虚無僧の雨宿り、遠景の描写を墨色で表現し、雨の旅情を感じさせる。
野尻宿 ■第四十一宿 「野尻・伊奈川橋遠景(のじり・いながわばしえんけい)」
 【英泉】  (長野県木曽郡大桑村野尻)

 「野尻の七曲り」という外敵から町を守るために左右に曲がりくねった宿場の町並みが残る。絵は伊奈川橋を中心に描いており、左手奥に「木曽の清水寺」といわれる岩出観音がシルエットで描かれている。
三渡野宿 ■第四十二宿 「三渡野(みどの)」
 【広重】 (長野県木曽郡南木曽町三留野)

 妻籠宿と並び栄えた宿場である。十二万体を夢見て全国行脚した円空の仏像が宿場内の等覚寺にある。絵には紅白の梅が咲き、春の訪れを告げている。
妻籠宿 ■第四十三宿 「妻籠(つまご)」
 【広重】 (長野県木曽郡南木曽町妻籠)

 現在でも江戸時代の町並みをよく残しており、木曽路を代表する観光地として有名。伊那谷への分岐点でもある。絵は、馬籠峠を描いてある。
馬籠宿 ■第四十四宿 「馬籠駅・峠ヨリ遠望之図(まごめえき・とうげよりえんぼうのず)」
 【英泉】  (長野県木曽郡山口村馬籠)

 妻籠宿と馬籠宿の間には馬籠峠(標高801m)がある。峠からは南に恵那山が眺められる。峠を下ると島崎藤村の生誕地であり、名作「夜明け前」の舞台になった馬籠宿。


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